皆さん、こんにちは。mitsukiです。
設計事務所の社長や従業員が建築士の資格を持っていない無資格者だったというケースがあるのは割と有名な話。
ですがその理由までご存知の方って実は少ないのではないでしょうか。
そこで今回はスバル無資格検査員問題を引き合いに、この問題について考えてみたいと思います。
昨年末、世間を賑わせたこの問題。
ご存じない方のためにも簡単に説明すると、
自動車メーカーのスバルが新車を発売する前の最終的な検査を、検査資格のない無資格者に行わせていた。
という問題です。
・このような体制でスバルは30年以上続けてきた。
・特段の事故はなかった。
・誰が被害を被ったんだ。
などなど様々な声が上がっていたそうですが、私がここで言いたいことはひとつです。
「制度が形骸化している」
この一点に尽きます。
ではこのスバル問題を建築士制度に当てはめて考えてみましょう。
建築士の受験資格
なぜ今回スバルの問題を取り上げたかというと「これって建築士の世界でも日常的に行われてることだよなー」と思ったからです。
いわゆる「名義貸し」と呼ばれるこの手の問題。
簡潔にまとめると「有資格者の名を借りて無資格者がその業務を行うこと」と言えますね。
この問題に触れる前に少し事前知識が必要です。
以前にもお話したかも知れませんが、建築の設計業務は基本的に建築系の学校を卒業することが求められます。
仮にそれらに該当する学校を卒業していない場合、実務経験◯年が必要になってきます。
その期間は最長で7年。
私の学歴も建築系にカスリもしていないため、あと数年は実務経験を蓄えていかなければなりません。
という事前知識。
しかしそもそも考えてみてください。
実務経験とはどうやって積むのでしょう。
建築士の資格がなければ設計業務をしてはならない。
しかし設計業務を積まなければ建築士にはなれない。
そんなメビウスの輪のような矛盾が建築士業界にはあります。
この禅問答のような無限ループを考え続けていても建築士の受験資格は得られません。
では学歴がない人々はどうすれば良いのでしょうか。
ここで建築士業界はひとつの解決策を提示しています。
それは「有資格者のもとで経験を積むこと」。
建築士の資格を持った人間(これを管理建築士と言います)を立てている会社や事務所で働けば、その期間は実務経験として認めるといったものです。
良かった。学歴がなくても方法があったんだ。
こうして所属先の事務所で7年間の実務経験を積んだ私。
晴れて建築士の受験資格を得ることができました。
ちゃんちゃん。
とは問屋がおろしません!
実務経験の闇
管理建築士のもとで設計業務を行うという行為。
一見すると辻褄が合っているようですが、そこには大きな闇が潜んでいます。
お気づきの方もいるかと思いますが、その間私は無資格の状態で設計・製図を行い、それが最終的にお客さんの手元に渡るわけです。
まんま「スバル問題」と同じです。
小打ち合わせで使用するような簡単な図面であれば問題はないのかもしれません。
しかし私達が作成する図面の中には、確認申請に添付する図面だったり、業者に詳細を指示する図面だったり、竣工図だったり、建築物の品質を担保する正式な図面が数多く含まれます。
それらがお客さんや行政の手元に末永く残るわけです。
恐ろしいことだと思いませんか。
知識や経験は多少なりとも蓄えている途中かもしれませんが、資格がないという一点で言えば一般人と変わりないですよ。
そんな人間が建築物の品質を左右する重要な図面を作成しているわけです。
ここまで書いたところで、業界の方であればすぐ突っ込むことでしょう。
「そういった類の図面でも品質を保つために管理建築士制度があるに決まってんだろ!」と。
はいはい、確かにありますね。
管理建築士とかいうクソ制度が。
管理建築士制度とは
管理建築士制度とは「設計業務を行う会社はその事業内容に応じて必ずひとり管理建築士を立てなさいよ」という制度です。
(ここでいう管理建築士は一級建築士、二級建築士、木造建築士のいずれかが該当します。)
この制度は設計事務所もハウスメーカーも、あるいは自社設計する工務店も例外ではありません。
どの会社も管理建築士を一人たて、都道府県に事務所登録をしています。
そういった意味では上の三者は、どれも平たくは「設計事務所」と言えますね。
いずれの会社も、この事務所登録をしなければ確認申請などの申請ができないため業務に支障が出ます。
建築士の資格が世に必要とされている理由はまさにここにあったんですね。
(これにもまた裏道があるのですが、また別の機会に)
さて、なぜ私が管理建築士制度を批判したか。
それはこの管理建築士の制度がどうしても実態を表していないと思うからです。
管理建築士制度の実態
一般の方からすればこう思うでしょう。
「ほうほう、管理建築士とな。ちゃんとした建築士が図面に穴が開くまでチェックしておるんじゃな」と。
しかし現実は異なります。
何を持って管理建築士が図面をチェックしたとするのか。
現実はとてもシンプルです。
判子を押す。
これだけです。
図面には検印欄があり、そこに管理建築士の名字が入った印鑑を押すだけでそれは正式な図面となるのです。
あまりに簡単すぎると思いませんか?
まあそれは置いておくとして、別に判子を重要視しているわけではありません。
先ほど設計事務所とハウスメーカーが同じだと言いましたが、そこからも問題の一端が読み取れます。
有資格者が一人で事務所経営している設計事務所と、100人・1000人と社員抱えているハウスメーカーが同じ「設計事務所」として扱われているのです。
ここが重要なポイントです。
ハウスメーカーではCADオペレーターなどが製図していることを踏まえると、知識を持たないものが製図しているのは火を見るより明らかです。
(求人を見ればわかりますが、CADオペに建築士の資格が求められることはまずありません。)
要はどんなに規模が大きい会社であろうと、社内にひとりでも建築士の資格保有者がいれば他の社員も全員建築士として見なされると同義なのです。
冷静に考えなくても、これってとてもスゴいことです。
ゲームで言えば裏ワザ的な魔法を使っている気分ですよ。
ここでスバル問題をもう一度振り返ってみます。
スバルは無資格検査の問題に対し、世間からの批判を重く受け止めリコールまで実施しています。
行っていたことに対しての問題はあったでしょうが、その後は真摯な対応をしていると思います。
しかし建築業界にそんな常識的な考えはありません。
なんと言っても建築士会が無資格検査さながらのやり方を公然と認めているのですから。
まずは学校に行って資格を取れ。
学校行かなかった奴らは仕方ねえから他の資格者の名を借りて実務に励め。
そうすれば試験を受けさせてやる。
建築士会はこう言っているわけです。
世間の人が知ったら卒倒しますよ。
と、ここまで大げさに言ってみましたが、大半の会社が万全のチェック体制で設計業務を行っているのかもしれません。
そのような会社では段階的なチェックを行い、管理建築士もしくはそれに準ずる知識を持つ方が最終的なチェックをするような体制になっているのでしょう。
しかし少なくとも私がこれまで見てきた会社はそうではありませんでした。
みんなでひとつの判子を共有し使いまわす体制が出来上がってましたし、働いている当人もそれが普通だと感じているようでした。
確認検査機関も印が押されている図面であればそれを正式な図面だと信じて疑わないのです。
そういった実態が管理建築士制度にはあります。
あまりにずさんな制度だと言わざるを得ません。
問題が発覚したとき管理建築士のクビが飛ぶことはもちろんですが、私がここまでコトを重要視しているのは、管理建築士の責任どうこうで話は収まらないからです。
建築物は長く世に残ります。
そんな重要で公共的なものが、あえて厳しい言い方をすれば、世間的には素人が書いた図面をもとに建てられている可能性も十分考えられるのです。危険極まりないです。
このような現状があるのに、芸術性だの、豊かさだの、別のことで頭を悩ませている建築士会はどうかしてます。
まず目先の片付けられる問題から対処しろよ、と言いたい。
解決策はないのか
ここまで建築士制度の問題提起をしましたが、現状のまま解決することは困難だと感じています。建築士は欠陥まみれの制度ですからね。
今回記事で取り上げたスバルさながらの問題とか、免許を取ったら生涯安泰とか、受験資格で門戸を狭めていることとか。
知れば知るほど不満は募ります。
解決策として以下の様なものを考えてみました。
・会社規模に応じた建築士の登録人数の下限
・免許を更新性にする
・受験資格の撤廃(半分は私怨です)
どれもやろうと思えばすぐにでも実施可能なことだと思うんですけどね。
またこのあたりも記事にしていきたいと思います。
おわりに
いつもご覧になっていだたきありがとうございます。
11月から年始にかけて空前絶後の忙しさでした。
記事の更新がかなり遅れてしまい本当に申し訳なかったです。
と同時に理由がもう一つ。
このブログを読んでくださっている方が増え始めてこう思うようになりました。
「下手な記事は見せられない!」
一つひとつの記事の密度を上げて読者の方を満足させたいと思うようになり、どうしても時間がかかってしまいます。
これが良い方向なのかはわかりませんが。汗
一過性の熱病でまたしょうもない記事をあげるかもしれませんが、しばらくはそんな方向性で行く予定です。今後とも宜しくお願いします。
それでは!